自由社の教科書の問題点

育鵬社自由社の、神道や建国に関する記述を比較した資料を、紹介致します。


自由社の教科書は、政治思想以前に、文章として出来が悪く、読んでいて頭に入って来ない。
教科書を見せる対象である「現代の中学生」を想定して書いたとは、とても思えません。



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自由社育鵬社の比較(神道や建国に関係する記述)


神道

評価 × 自由社自由社は、索引に「神道」が出てこない。また、「神仏習合」は、p「178」の「殖産興業と文明開化」の章だけに出てくる。不適切。

・p178本文
「政府は、1867(慶応4)年、奈良時代からつづいてきた神仏習合の慣習を改めようと考え、神社から仏教食をなくす神仏分離令を定めた。」 
              … 自由社は、神道が出てこないばかりか、神仏習合が近代の神仏分離令にだけ出てくる。
・なお、索引の「神話」の項は、「36、44、45、46」とあるが、いずれのページを見ても、神道ないし神道儀礼の記述は見えない。



 自由社に「神道」なし。しかし、「清朝」は、5箇所に出てくる。また、神仏習合は近代の頁に出てくる。索引p282


評価 ◯ 育鵬社:コラムp38「日本人の宗教観」において「●わが国固有の宗教・神道の特色」として、詳しく説明している。四方拝新嘗祭、皇霊祭なども具体的に取り上げており、日本人の信仰の記述として、きわめて適切(次枚頁)。

・以下、適切な記述がある育鵬社
・索引では、「神道」は、「38、40、144、179」にある。


育鵬社p38


育鵬社p40


・同p144


・同p179



神武天皇東征記事

評価 × 自由社:神話で本文2pを割いているのは評価できるが(「8 神話が語る国の始まり」)、肝心の神武天皇の東征記事については説明が全くない。しかも、表現が抽象的で、わかりにくい。

P45本文
「イワレヒコの命は天の霊力を血筋として受け継いだだけでなく、山の神や海の神の霊力をもその身体に取り込んできた。そして、瀬戸内海を経て大和に入り、初代の神武天皇として即位した(神武東征伝承)。」


評価 〇 育鵬社:簡潔ながら、特徴をとらえており、中学生にもわかりやすい。

p50コラム記事                                                        
「3代目に当たるカムヤマトイワレヒコノミコトのころになると、国を治める中心としてふさわしい地を定め、部下とともに船出することになりました。めざしたのは大和(奈良県)でした。

 多くの豪族を説き伏せたり、その地の神をともにまつったり、また時には激しい戦いをくり返しながら、一行は大和にたどりつきました。こうしてカムヤマトイワレヒコノミコトは畝傍山のふもとの橿原で即位し、初代神武天皇となるという物語です。」

・なお、近年の概説書でも、神武天皇の建国記事における「祭祀的結合」が重視され、この点でも、育鵬社は、評価できる(〇)

例えば、大津透『天皇の歴史01 』(講談社)によれば、「…また、「記紀」のあらゆる武力討伐が必ず「まつろはぬ」ものをまつろわせるという言葉で表現され、討伐や殺戮は最後までまつろうことを拒否した敵に対して行われ、軍事的行動が祭祀的結合に価値的に服属していた…」などとある。



■文明や国家のはじまり


評価 ▲ 自由社:p34「文明の発生と国家の誕生」では、国家の宗教的起源を記さず、灌漑工事の「指導者」が、しだいに「世襲の王」になったとの書き方。神話記述との整合性がとれない。表現も、やや抽象的。

p34本文 「多数の人々を動かす大規模な灌漑工事には、工事を指揮する指導者が必要だった。指揮者は、人々から租税を徴収し、共同の事務を管理する書紀(役人)を雇った。書紀は文字を使って記録した。また、指導者は、暦を制定し、神を祭り、戦いなどを指揮して人々の尊敬を集め、広い地域を統合するなかで、多くは世襲の王となった。」


評価 〇 育鵬社:神殿を中心とする都市から国家が生まれたとするオーソドックスな記述。国家制度、法、軍、裁判、税金の成り立ちとしても、具体的で、丁寧。

p26本文 「都市の中心には神殿があり、田畑に水を引くためのかんがいなどの公の事業やとなりの都市との争いをとりしきる指導者があらわれ、まわりに濠や城壁が築かれて外部から独立した国家がつくられました。そこでは、高貴な家柄の王や、神の子孫と考えられた神官を中心として身分や位が定められました。

 また、古くから伝わる慣習から法律が定められ、生命や財産を守るために軍隊が生まれました。犯罪や不正をただすために裁判が行われ、神への貢ぎ物とそれをわけあたえるしきたりからは、税を集めてまわりに支給するしくみが整いました。」