『あいうら』BDのインタビュー記事から


ゆゆ式』と同時期に同じく箱庭動物園を完成させた『あいうら』、
BD付属の冊子には、示唆に富んだ記事がありました。



・茶麻氏「そもそもこの子達は、海やプールに行かないんじゃないか」136p

だらだらとしているだけで特に何もしない、という性格付けが、無意識に行われているようです。
これに限らず日常系の原作は、あまりガチガチに設定などを固めずに、自分のセンスに従って、
自然に感覚的に流れるように描いている……と、思われます。

こうした日常系萌え作品の質感は、才能ある個人の原作者が人生をかけて何年もかけて紡ぎ出した
小ネタの積み重ねによって出来ているので、例えば、大企業が会議で作ったオリジナルアニメのような、
ハリウッド型の設計主義の作品では決して出せない質感を持っています。
それを(日常萌え系の門外漢である)中村監督は、はっきりと意識して捉えている。



・「デフォルメとリアリティのバランスというのは、今、アニメの表現のなかでも最もホットな部分」143p

インタビュアーの言。
90年代のゲーム業界と似た状態で、『けいおん!』の成功後、
多くの作品が「ライトオタク層」獲得の為に、その方向に動いています。
自治体やコンビニなど多くの一般企業との協業が増えたことも、その一環でしょう。
技術面で最も先行しているのは、ぽにきゃんと京アニです。
若し、コア層とライト層を同時に掴もうという考えに走ってしまうと、すぐに行き詰まるでしょう。
この場合、あくまで標的は「ライトオタク層」です。

客層を細かく分割して、それぞれの小さな市場に向けて作品を発信する。
多数のラインを展開して、それらの中で、より多くの客層に広がりを見せる作品が出てきたら、
徐々に力を入れる……といった、AKBから始まった「多数から選ばせる方式」に、全体としては流れています。
進撃の巨人』のように、放送前から原作が100万部売れていて、ある程度のヒットが保証されている作品は
殆どありません。最初からバカみたいに広告費を投下しても、売れないものは売れない。



・中村監督「「可愛い」は、それが目的になってはいけない。それではあざとく品がなくなってしまう」145p

萌えや恋愛、エロ描写は、あくまで脇役に過ぎず、それだけを作品の売りにしても上手くは行かない、
という基本を思い出させてくれました。
例えば、出来の良いRPGやSRPGに出て来るキャラクターは、性的な二次創作の対象になりやすい。
恋愛や性的な要素以外の部分、ストーリーやギャグなど、どういう内容で受け手を楽しませるのか、
という主要な部分が先ずしっかり出来ていないと、何もならない。
現実には、何時間も会議をした挙句、胸やおしりを強調しただけの動画を垂れ流す愚行が後を絶ちません。