資料:東京書籍vs育鵬社【中学公民編】


4年に1度の教科書採択の時期がやって参りました。
政治思想界隈では、オリンピック、ワールドカップにも匹敵する一大イベントです。

とあるルートから「東京書籍」と「育鵬社」の公民教科書を比較した資料を入手したので、紹介します。


以下雑感。

憲法

東京書籍の文章は、完全に階級闘争史観で書かれています。
書き手の脳の中は「国家=権力=絶対悪」、「市民=絶対善」という構図で充満しているのでしょう。


自衛隊

例の安保法案違憲発言の長谷部氏も、自衛権は認めています。
東京書籍の執筆者は2015年現在も、社民党に近い意識を持って、
自衛権放棄を子供達に刷り込み続けています。

天皇

東京書籍の執筆者は、皇族を「便利な外交官」か「客寄せパンダ」程度にしか考えていないらしい。
育鵬社は「国民統合の象徴」の真の意味、すなわち、日本が国として存続する為の存在理由
(=国体=皇統)の象徴であることが描かれている。

一点気になったのが、「現代の立憲君主制のモデルになっています」という箇所。
立憲君主制は英国がモデルで、日本も明治期に欧米を模倣した、という認識は、間違いなのだろうか。

あるいは、現代の御皇室は素行が最も優れているから全世界のお手本である、といった意味なのか。
それとも下記のサイトのように、清和天皇の時代の摂関政治による「権威と権力の分化」を起点と捉えているのか。
http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/imperiestro.htm

ここは「現代の立憲君主制と同様のことを昔から続けて来られました」といった言い回しの方が、
文意に近くなるのではないだろうか。


地域や家族への愛情

東京書籍は、俗に「育児・介護の社会化」と言われる行為、すなわち、
母親の育児・介護放棄、および、それらの近隣住民への押し付けを意図した表現がある。

加えて、特定のイデオロギー丸出しの、「ペットも家族」にも通じる、
大家族の破壊と個人主義化の正当化が描かれている。
たとえ一時的に一人暮らしの人でも、父母や祖父母や先祖がいることには変わり無い。

唯一「安らぎ」という単語を入れたことは評価出来るが、
その安らぎを家庭に満たすことが母親の存在意義であり、
女性の最も重要な仕事である、ということには、当然言及していない。

育鵬社の方は、やや堅めだが、
掴みの東日本大震災と、介護の一節で「縦軸の哲学(先祖から子孫への繋がり)」を表現している。
正直、現在この分野はかなり苦しいが、育鵬社版は可能な範囲で女権ファシズムへの反論を試みている。

国旗国歌

東京書籍の書き方だと、日本には1999年まで国旗も国歌も無かったかのような印象を受ける。
一件無難に見えても、徹底的に日本や日本人を矮小化しようという意図が入っている。
国旗も国歌も成立したのは明治初期だが、「日の丸」は、日本を象徴する旗として後醍醐天皇の時代から使われていた。「君が代」の歌詞が古今和歌集の和歌であることは周知の事実。

育鵬社のこの項は、とにかく美しい。「それぞれの国の歴史や国民の理想が込められています」は見事。



人権問題

典型的な階級史観である。


参政権

外国人による人口侵略を招く外国人参政権推進を煽っている。


強制連行(虚偽)

東京書籍は完全な虚偽を記述している。
教科書にも嘘が書かれていることは多いので、学生は鵜呑みにしないように。



全く関係無いが、育鵬社版の147pの囲み記事を見て笑ってしまった。
マルクスがまるでダメオヤジのように描かれている。
前回と文章は殆ど同じなのだが、見せ方、レイアウトを変えるだけで印象ががらっと変わる。






以下、テキスト版を掲載。

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資料:東京書籍vs育鵬社【中学公民編】
                                   ※平成27年夏に採択、28年度より使用



■領土教育

Point:北方領土竹島尖閣を巡る問題について、両教科書とも記述を行っているが、主権(領土主権)に関わる重要問題という核心的な部分を、東京書籍は書いていない。育鵬社は、国際社会を意識し、日本国の正当性を伝える努力を求める書き方。


東京書籍――(領土主権に触れない。該当なし)

育鵬社――領土は国家主権の大事な要素ですから、こうした事件にきちんと対応し、日ごろから備えるとともに、外交的な努力などで相手の国や国際社会に日本の主張を理解してもらうことが必要です。



■国のかたち、憲法

Point:東京書籍は、立憲主義について、人権を守る権力行使を含むとする現代憲法学の多数説を記していない。育鵬社は、国のかたちを示し、国民に自覚と誇りを持たせるのが憲法とする説明。


東京書籍――…国の政治権力は強大で、国民の自由をしばることができます。そこで、この政治権力から人権を守り、保障していくために、憲法によって政治権力を制限するという考えが生まれました。これを立憲主義といいます。立憲主義の考えは、政治が人の支配によってではなく、法の支配に基づいて行われることを求めています。

育鵬社 ――憲法は、国の理想や基本的なしくみ、政府と国民との関係などを定めたものです。現代の多くの国の憲法には、歴史・伝統・文化など自国の独自の価値が盛り込まれています。各国は独自の「価値」を憲法に記述することにより、国民に自覚と誇りをもたせています。



自衛隊、国や郷土を守る気概

Point:東京書籍は、自衛隊違憲論を強調している。しかし、諸外国の憲法では、通常は、国民の義務として、自らの国や郷土を守る「国防の義務」を負うという規定があることなどは記さない。育鵬社は、国家主権には自衛権がともなうとするなど国際社会を意識した書き方。


東京書籍――自衛隊憲法第9条の関係について、政府は、主権国家には自衛権があり、憲法は「自衛のための必要最小限の実力」を持つことは禁止していないと説明しています。一方で、自衛隊憲法第9条の考え方に反しているのではないかという意見もあります。

育鵬社 ――主権国家には国際法上、自衛権があるとされ、世界各国は相応の自衛力をもっています。…
(図版・各国の憲法に記載された平和主義条項と国防の義務)
(図版説明)日本以外の国でも、憲法で戦争の否認や放棄などが規定されています。また、同時に憲法で国民に国防の義務を課している国もあります。
イタリア共和憲法(第11条、国防の義務と兵役の義務を規定した第52条)
ドイツ連邦共和国基本法(第26条、兵役の義務を規定した第12条a)
大韓民国憲法(第5条、国防の義務を規定した第39条)
コスタリカ共和国憲法第12条



天皇・皇室への敬意

Point:東京書籍は、立憲君主制とする政府見解にふれず、また、敬意を欠いた表現も目につく。育鵬社は、歴史や立憲君主制の意義をふまえた書き方。


東京書籍―― 天皇は、国の政治についての権限は持たず、憲法に定められている国事行為のみを行います。……また、天皇は、国事行為以外にも、国際親善のための外国訪問や、式典への参加、被災地の訪問など、法的、政治的な権限の公使に当たらない範囲で、公的な活動を行っています。

育鵬社 ―― (憲法上の天皇の地位を説明した後)天皇は直接政治にかかわらず、中立・公平・無私な立場にあることで日本国を代表し、古くから続く日本の伝統的な姿を体現したり、国民の統合を強めたりする存在となっており、現代の立憲君主制のモデルとなっています。
※コラム「理解を深めよう」で「日本の歴史・文化と天皇」、「皇室と福祉」、側注で「皇室と国際親善」を取り上げている。



■地域や家族への愛情

Point:東京書籍は、地域社会や家族について平板な記述しかない。また、郷土という言葉が見えず、地域に愛着を持たせる記述とも言えない(教育基本法第2条5「我が国と郷土を愛する……態度を養う」とある)。育鵬社は、郷土、家族への愛情、個々の役割を伝え、公民意識をはぐくみ、地域への貢献をめざす記述となっている。


東京書籍――地域社会も、社会的なルールを身につけたり、暮らしを支え合ったりする大切な社会集団です。特に近年では、育児や介護、防災・安全、伝統文化の継承などにおける地域社会の役割が見直されています。

育鵬社――自分が生まれ育った土地のことを郷土といいます。郷土は自己の形成に大きな役割をはたすとともに、一生にわたって大きな精神的な支えとなるものです。私たちは郷土の人々や生活、文化、伝統に親しみ、それを大切にすることをとおして、郷土愛をはぐくんでいきます。2011(平成23)年3月11日におこった東日本大震災で、私たちはあらためて郷土の大切さを知ることになりました。私たちが地域のコミュニティーを維持していくためには、各自が郷土の一員として発展に貢献していくという公共の精神をもつことが重要となります.


東京書籍――家族は、私たちが最初に出会う最も身近な社会集団です。私たちは家族の中で安らぎを得、支え合い、成長し、社会生活の基本的なルールを身につけます。
家族の形も多様化してきています。日本の家族は、戦後、祖父母と親と子どもで構成される三世代世帯の割合が減少し、親と子ども、あるいは夫婦だけの核家族世帯の割合が増加しました。近年では、一人暮らしの単独世帯の割合が大きくなっています。……

育鵬社――家族は、愛情と信頼で結ばれた、最も身近な共同体で、社会の基礎となる単位です。私たちは、家族の中で育てられ、人格をはぐくみ、慣習や文化を受けつぎ、社会で生きるためのルールやマナーを身につけていきます。やがて私たちは新しい家族をつくり、今度は私たちを育ててくれた年老いた親を支え、介護することも大切な役割になります。



■国旗国歌の意義

Point:東京書籍は、国旗や国歌の持つ意味に触れず、外国との間で「相互」に尊重するとあるだけで、「自国を愛し,その平和と繁栄を図ることが大切であることを自覚させる」(学習指導要領)記述とは言えない。


東京書籍――主権国家は、国家の象徴として、国旗と国歌を持っています。各国の国旗や国歌にはその国の歴史と文化が反映されています。日本では1999(平成11)年に法律で「日章旗」を国旗、「君が代」を国歌と定められました。国どうしが尊重し合うために、たがいに国旗・国歌を大切にしていかなければなりません。

育鵬社――国旗と国歌はその国を象徴するもので、それぞれの国の歴史や国民の理想がこめられています。
それぞれの国の人々が、自国の国旗・国歌に愛着をもつのは当然のことです。国旗・国歌に敬意を払うということは、その国そのものに対して敬意を払うことになるので、それらを相互に尊重し合うのが国際儀礼になっています。
(コラム「理解深めよう」)国歌は、国旗と同様に、その国そのものを代表するシンボルです。国歌の斉唱(演奏)にあたって、政治信条などにかかわらず、起立して敬意を表すのが国際的な慣例となっているのはこのためです。
(側注)「国際社会で通用する国旗・国歌への敬意の表し方」



■人権問題、外国人参政権問題など


東京書籍――私たちは、日常の生活で人権が保障されていると感じることはあまりありません。しかし、人権がいかに大切かは、例えば、私たちの電話が政府によって盗聴されていたり、手紙やメールが検閲されていたりして、政府にとって都合の悪い話をしただけで逮捕されてしまうような社会を想像すれば、よく分かります。

Point:日本の基本的人権の説明として、かなり不適切な表現。一方、盗聴・検閲、政府批判による逮捕がという人権侵害が現に行われているケース(例えば中国)には触れない。


東京書籍――日本では、参政権は国民の権利として日本国籍を持つもののみに認められています。これに対して、外国人にも、一定の案件の下、一人の住民として地方選挙の選挙権を認めるべきだという意見もあります。


Point:外国人参政権には国民の間に反対論が多く、また、すべての訴訟が最高裁で退けられていることを記述しないのは恣意的。


東京書籍――2012年現在、日本には53万人の在日韓国・朝鮮人が暮らしています。この中には、1910(明治43)年の日本の韓国併合による植民地支配の時代に、日本への移住を余儀なくされた人たちや、意思に反して連れてこられて働かされた人たちとその子孫も多くいます。しかし、日本では、今なおこれらの人たちに対する就職や結婚などでの差別がなくなっていません。日本で生活していることやその歴史的事情に配慮して、人権保障を推進していくことが求められています。

Point:傍線部は政府調査による事実などに反する。そうした誤った事実認識に基づいて「歴史的事情に配慮」を説くのは公正ではない。



比較の評価のまとめ: 
上記の諸点から比較してみても、東京書籍には、記述に偏りや歪みがある箇所が多い。これに対して、育鵬社は、教育基本法や指導要領の趣旨をふまえた、バランスのとれた教科書と評価できる。