新しい教科書の内容:【中学歴史編&公民編、上位5社】

先日に続いて、上位5社の教科書を比較した資料を入手したので、紹介します。



歴史上の人物

先ず目立つのが、育鵬社が歴史上の人物として女性を多く取り上げていることです。
これは、日本が他国に比べて、決して男尊女卑の国柄では無い、ということを表しています。

リベラルである東京書籍は、歴史上の女性には冷たいようです。
それも、階級闘争史観を補強する為に必要な行為なのでしょう。


国家や文明のはじまり

各社の階級闘争史観が、一神教文明的な過酷な土地を想起させるのに対して、
育鵬社の描写は肥沃な土地に芽吹いた多神教文明の穏やかな姿を描いています。


南京事件

例えば日本書紀がそうであるように、基本的に、教科書や学問書では、
確定していない事柄については、各論を併記しなければなりません。

南京事件を「完全に無かった」と表記する教科書があるとしたら、
一部の真正保守の人々を喜ばせることは出来ますが、教科書の編者としては誠実とは言えません。
たとえ不愉快であっても、今は両論併記を行うべきです。






以下、テキスト+画像を掲載



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新しい教科書の内容:【中学歴史編、上位5社】
平成27年夏に採択、28年度より使用


■歴史上の人物や女性を重視する教科書か?

◇独立した人物コラムで取り上げた、歴史上の人物一覧(女性を除く)
(網掛けは1頁を費やして詳しく取り上げた人物、括弧の中は取り上げた人数)

◇独立した人物コラムで取り上げた、歴史上の人物一覧(女性)


■外国人名の読み方

日本文教 p225、228
蒋介石孫文毛沢東の読み方を、中国語の「チェンチェシー」「スンウェン」「マオツォトン」を上側のルビにして
優先させ、索引でも「蒋介石→チャンチェシー」、「孫文→スンウェン」「毛沢東→マオツォトン」と指示する。


■伝統文化を重視する教科書か(本文以外の伝統・文化関連のページ数)

東京書籍 計13頁
教育出版 計13頁
帝国書院 計2.5頁
日本文教出版 計8頁
育鵬社 計29頁



■例:代表的な文化遺産や人物、歴史名場面を取り上げているか


例えば、◇適塾緒方洪庵
帝国書院 索引に見えず、日本文教 索引に見えず、教育出版 側注のみ、東京書籍 本文と地図にあり。
育鵬社 3ヵ所
p130 地図
p145 本文
p145 側注・写真

◇江戸無血開城勝海舟
育鵬社
p167 コラム

東京書籍
p.159 勝海舟が側注にしか出てこない。写真もなし。


■国家や文明のはじまり ―支配vs被支配の階級闘争史観〈マルクス主義

東京書籍
p.24<本文>…たくわえた食料をめぐる争いが増え、やがて強い集団が弱い集団を従えて、国ができました。/初めは、人々から選ばれて、戦争や祭り、用水路の工事などを指揮していた人が、次第に人々を支配する者(王や神官、貴族)になり、支配される者(農民や奴隷)との間の区別ができました。

教育出版
p.17<本文>この富をめぐる戦いや、祭り、農作業などを指揮していた者のなかから、強い権力をもつ支配者(王)が現れ、人々を統治するしくみを整えました。こうした営みのなかで、世界各地に文明が形づくられていきました。

帝国書院
p.14<本文>作物の収穫が増え、食料にゆとりができると、食糧を管理し、農作業や軍事の指揮をとる、王が現れました。王は、城壁に囲まれた都市をつくり、神やその代理人として祭りや政治を行い、広い土地と農民や奴隷を支配しました。

日本文教出版
p.20<本文>都市や国家の誕生は、世界各地の農耕と牧畜の発展した地域でおこりました。…まずメソポタミアの南の地域の人々が文字や青銅器を使用したほか、王宮の建設が始まり、巨大都市そして国家が出現しました。人類の文明の始まりです。

育鵬社
p.26<本文>都市の中心には神殿があり、田畑に水を引くためのかんがいなどの公の事業やとなりの都市との争いを取りしきる指導者があらわれ、まわりに濠や城壁が築かれて外部から独立した国家ができました。そこでは、高貴な家柄の王や、神の子孫と考えられた神官を中心として、身分や位が定められました。


奈良時代の貴族と庶民の食事の比較 ―貧富差や身分差の強調


東京書籍p.44<写真側注>
教育出版 p.41<写真側注>
帝国書院 p.36<写真側注>
日本文教出版 p.42<「図版特集」>

育鵬社 なし


南京事件

東京書籍
p.220<本文>日本軍は、1937年末に首都の南京を占領し、その過程で、女性や子どもなど一般の人々や捕虜をふくむ多数の中国人を殺害しました(南京事件)。<側注>この事件は、「南京大虐殺」とも呼ばれます。被害者の数については、さまざまな調査や研究が行われていますが、いまだに確定していません。

教育出版
p.219<本文>12月に占領した首都の南京では、捕虜や住民を巻き込んで多数の死傷者を出しました。<側注>このできごと(南京事件)は、戦後の極東国際軍事裁判東京裁判)で明らかにされました。犠牲者の数などについては、さまざまな説があります。

帝国書院
p.220<本文>南京では、兵士だけでなく多くの民間人が殺害されました(南京事件)。<側注>この事件は、諸外国から非難されましたが、戦争が終わるまで、日本国民に知らされませんでした。死者数をふくめた全体像については、調査や研究が続いています。

日本文教出版
p.228<本文>日本軍は、各地ではげしい抵抗にあいながらも戦線を広げ、12月に占領した首都南京では、捕虜のほか、女性や子どもを含む多数の住民を殺害しました(南京事件)。<側注>当時、この事件は日本国民には知らされませんでした。戦後、極東国際軍事裁判に当時の調査資料が提出され、その後の研究で、部隊や将兵の日記にもさまざまな殺害の事例が記されていることがわかりました。ただし、全体像をどうとらえればよいのかなど、さらに研究が必要な部分もあります。

育鵬社
p.229<本文>日本軍は12月に首都・南京を占領しましたが、(後略)<側注>このとき、日本軍によって、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)。この事件の犠牲者数などの実態については、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている。


■強制連行

東京書籍
p.227<本文>多数の朝鮮人や中国人が、意思に反して日本に連れてこられ、鉱山や工場などで劣悪な条件下で労働を強いられました。こうした動員は女性にもおよび、戦地で働かされた人もいました。

教育出版
p.227<本文>労働力の不足を補うために、多数の朝鮮人や中国人が日本の鉱山や工場に連れてこられ、低い賃金で厳しい労働を強いられました。…多くの朝鮮人女性なども、工場に送り出されました。

【解説】とくに東京書籍は、慰安婦を連想させる記述であり、女性の工場動員は、当時「女子挺身隊」と呼ばれ、慰安婦とは全く別の存在。「戦地で働かされたひともいました」というのは、慰安婦以外には考えられない。


■日本国の立場より、諸外国の立場や考え方を詳述する


地球市民世界市民

東京書籍p.263<本文>「地球に生きる人間(地球市民)としての意識を持つことが求められています。」

教育出版p260<本文タイトル>「未来をひらくために 世界のなかの市民の一人として」

【解説】東京書籍と教育出版の結論は、「我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」(学習指導要領の目標)というより、「地球市民世界市民としての自覚を育てる」ことにあることになる。



新しい教科書の内容:【中学公民編、上位5社】
平成27年夏に採択、28年度より使用


憲法9条自衛権自衛隊

東京書籍
p.42 自衛隊憲法第9条の関係について、政府は、主権国家には自衛権があり、憲法は「自衛のための必要最小限の実力」を持つことは禁止していないと説明しています。一方で、自衛隊憲法第9条の考え方に反しているのではないかという意見もあります。

教育出版
p.67 歴代の政府は、すべての主権国家には自衛権があり、「自衛のための必要最小限度の実力」を保持することは、第9条で禁じている「戦力」ではない、という見解にたっています。一方で、国民の中には、自衛隊のもつ装備が「自衛のための最小限度の実力」を超えるものだとして、自衛隊憲法に違反するという主張もあります。

帝国書院
p.41 自衛隊憲法第9条や平和主義に反するのではないかという議論もありますが、政府は、自衛のための必要最小限の実力組織にすぎない自衛隊は戦力にあたらず、戦争放棄といっても自衛権まで放棄したわけではないので憲法違反ではない、としています。

日本文教出版
p.69 第9条は武力によらない自衛権だけを認めているとか、自衛隊の装備は自衛のための最小限の実力をこえているなどの理由から、自衛隊憲法に違反しているのではないかという指摘があります。これに対して政府は、主権国家には自らを守る自衛権があり、自衛のための必要最小限の実力は禁じていないから、自衛隊は、憲法の禁止する「戦力」にあたらないとしています。
p70 …このような自衛隊の海外派遣については、自衛の目的をこえるもので、外国軍隊の武力衝突に巻きこまれることをあやぶむ意見もあります。

育鵬社
p.57 主権国家には国際法上、自衛権があるとされ、世界各国は相応の自衛力をもっています。日本政府も、日本国憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と記した国際政治の理想と、現実の国際政治が異なっていることから、防衛態勢の整備と強化など、現実的な対応をしてきました。自衛隊は日本の防衛には不可欠であり、また災害時の救助活動などでも国民から大きく期待されるとともに信頼されています。

【解説】今年3月の内閣府世論調査では、自衛隊への印象が「良い」「どちらかといえば良い」を合わせた回答が92.2%に上るのに、未だに自衛隊違憲論を登場させるのは、特定の学説に偏った記述。また、国際法上、主権国家は「自衛権」を固有の権利として持っているが、その点に触れず、「自衛権」は政府見解の紹介のなかで記述され、育鵬社以外は、自衛権保有は政府解釈であるとしか読み取れない。なお、日本文教の「外国軍隊の武力衝突に巻きこまれる」は、あからさまな現政権批判であり、政治教育。


憲法改正、平和主義

帝国書院 p.39 

<右記本文p39>なお、日本国憲法の「改正」とは、一部の改正を予定しており、三大原則のような憲法の根本を大きく変える改正は、第96条によってもできないといわれています。

【解説】憲法学の通説、多数説ではない。

帝国書院 p.40,41 日本は平和主義の下、第二次世界大戦後一度も戦争に巻き込まれることなく、平和を守ってきました。(中略)軍備の縮小を進めて世界平和を追求する方法として、平和主義は現実的な選択になっています。(中略)/私たち一人ひとりが夢を実現できる平和な社会を築いていくためには、平和主義を広めることが必要です。そのためには積極的な外交が重要であり、国家間で軍縮を進め、国際平和を実現できるしくみを強化することが求められます。

【解説】この記述は、九条の平和主義が「現実的選択」であり、九条の平和主義を世界に広めることが必要だという文意だが、一部の論者(例えば、水島朝穂)の主張そのままであり、「現実的な選択」についての例示もない。



外国人参政権、公務員就任

東京書籍 p.56

教育出版 (右上の図? 神奈川県川崎市の「外国人市民代表者会議」のしくみ)
p.113 (右下の側注) 在日外国人の声を政治に反映させるために、1996年から設けられています。2008年には、外国人も投票できる「住民投票条例」が、この会議からの提言もきっかけの一つとなって成立しました。

教育出版 p.49 1996年に、神奈川県川崎市は、消防職員以外の公務員採用試験の受験資格から、全国で初めて国籍条項をはずしました。

【解説】外国人参政権付与、公務員就任を助長しかねない記述である。


■人権、差別、在日外国人など

東京書籍 p.44,45 

<上記本文>私たちは、日常の生活で人権が保障されていると感じることはあまりありません。しかし、人権がいかに大切かは、例えば、私たちの電話が政府によって盗聴されていたり、手紙やメールが検閲されていたりして、政府にとって都合の悪い話をしただけで逮捕されてしまうような社会を想像すれば、よく分かります。

【解説】日本ではあり得ない想定を提示し、人権の大切さを説明するのは不適切。一方、政府批判による逮捕という人権侵害が現に行われているケース(例えば中国)には触れない。


■強制連行、戦後賠償

東京書籍
上記p.47本文 2013年現在、日本には約52万人の在日韓国・朝鮮人が暮らしています。この中には、1910(明治43)年の日本の韓国併合による植民地支配の時代に、日本への移住を余儀なくされた人たちや、意思に反して連れてこられて働かされた人たちとその子孫も多くいます。……日本で生活していることやその歴史的事情に配慮して、人権保障を推進していくことが求められています。

【解説】「意思に反して連れてこられて働かされた人たちとその子孫も多くいる」は政府調査による事実に反する。

教育出版 p.49

教育出版
p.191 側注?日本政府は、国家間の賠償などの問題はすでに解決済みという立場をとってきています。また1995年には、当時の村山富市首相による談話などで、公式に謝罪をしました。しかし、戦争時に日本の軍や企業による行為で被害を受けた人々からは、現在でも補償を求める動きが続いています。

【解説】村山談話を取り上げ、補償を求める動きが正しいかのように導く記述である。


自治基本条例、まちづくり基本条例

教育出版 p113

日本文教 p93 …住民と地方公共団体が対等の立場で協力するためのまちづくり基本条例を定めている市町村もあります。 

【解説】自治基本条例を「自治憲法」と評価し、まちづくり基本条例により、住民が自治体と対等の立場に立つとしているが、これらには批判が多いことは記さない。


違憲判決、訴訟の写真・イラスト(全て帝国書院